ハーメルンの斑な笛吹き Poem by Gaku Haghiwara

ハーメルンの斑な笛吹き

ハーメルンの斑な笛吹き
童話
(W.M.の若君のために書かれ、これに献ず。)
I.
 ハーメルンの街はブランスウィックに、
かの有名なハノーバー市のそばに。
 ヴェーザーの川、深くも広く、
 南側に立つその壁洗う、
 またとあるまい愉快な地。
そこに我が歌始めると、
 概ね500年ほど前、
 民草いたく悩めるを見る
 害獣により、憐れにも。
II.
  鼠共!
犬を蹴散らし猫をも殺し、
 揺りかごに休む赤子に噛みつき、
 桶から零れたチーズを喰らう、
  料理の匙からスープ舐め取る、
魚の小樽も割り開き、
 旦那の帽子は巣にされた、
 主婦のおしゃべり聞こえない
  語るところに重なって
  金切り声にチューチュー鳴き声
50も違った声色で。
III.
とうとう民衆一体となり
 襟を正して役場に詰めかけ
「明らかに」と皆叫ぶ、「うちの市長は抜作だ。」
 「加えて我等の議員達は……腰抜けだ。」
「オコジョのガウンを我等が買ってやるのか
 決断できずしようともしない間抜け共に
 害獣駆除に何すりゃ良いかと!
 歳食って恰幅良いから願うのか、
 ぬくぬくと毛皮纏える市民で居たいと?
 目を覚ませ、各々方!ついてる頭を絞れ
 策を見つけろ、我等になかった、
 さもなければ覚悟しろ、お前ら全員押し込んでやる!」
これには市長も議員たちも
周章狼狽、震え戦いてばかり。
IV.
皆で会議に1時間ばかり、
 やっと市長が沈黙破り
「我がオコジョのガウンを1ギルダで売り、
 1里も離れて居ったなら!
 人の脳みそ貶すは容易く……
 乏しき頭は痛むしかなく、
 ない知恵絞るも、全て儚く。
 罠を策をと、皆ちくちくと!」
こう言った途端、何が起きたか
議場の扉にコツコツと?
「すわっ、」と市長が叫ぶ、「何事?」
(議員と共に座っていたが、
 驚異的デブが小さくなって。
 その目に艶なく潤いもなく
 口を開け過ぎた牡蠣より悲惨、
 お昼に鳴り出す太鼓腹を養うは
 緑色にねばつく亀の料理とか)
「靴をマットで拭ってただけ?
 鼠か何かの物音みたいで
 私の心臓ぴったぱったと!」
V.
「入り給え!」と市長は呼んだ、尊大に。
して入ってきたのは、なんと超ド派手な出で立ち!
頭から踵まで伸びたロングコートは
半分黄色く半分真っ赤、
その体つきは背高く痩せぎす、
鋭く青い目、画鋲のよう、
伸ばしたなりの明るい髪に浅黒い肌、
頬に房なく顎にも髭なく、
口元に笑みが行ったり来たり
親類縁者は思い当たらず
誰ひとりよく感心できず
のっぽな男の風変わりな服に。
一に曰く「まるでうちの曾祖父さんが、
 秘法『審判』のラッパの音に動き出し、
 塗り直した墓石から此方へ歩いてきたような!」
VI.
議場を進んで壇上に立ち
「どうか皆様ご清聴」と、「僕にはできます、」
「とある秘密の魔法を使って、連れて行くのが。
 陽の下に生ける生き物全て、
 地を這う、泳ぐ、翔ぶ、走るものを
 我が後に、見た事もないように!
 特に我が魔法使えるは
 人々害する生き物に、
 モグラやヒキガエルや毒蛇やらに。
 人呼んで斑の笛吹き、ここに参上。」
(ここに至って皆が男の首元見れば
 スカーフ巻くは赤と黄色の縞模様、
 そっくりそのまま外套にもある縞四角。
 そのスカーフの端に笛吊るし。
 男の指先、見るからに落ち着かぬ様子、
 吹いていたいと言わんばかりに、
 この笛近く、揺蕩うように
 甚だ古風な服の上から。)
「まだまだ拙い笛吹きながら、
 タタールではカーンを解放しました、
 この6月、生じた虻の大群から。
 アジアではニザームを慰撫、
 化け物じみた吸血コウモリの1団から。
 それで当惑されているとは存じますが、
 もしこの街の鼠を僕が一掃できたなら、
 1千ギルダばかり頂戴できますか?」
「1?50でも!」との感嘆が
圧倒された市長と議員たちから。
VII.
歩める笛吹き、通りにあって
 微笑みまずは僅かに浮かべる、
眠る魔法を諳んじたのか
 鳴らす前しばしの笛に。
して音楽の大家よろしく、
かの笛吹くに唇皺寄せ、
鋭い両眼青や緑に瞬くは、
塩を振った蝋燭の火さながら。
してかの笛、高音きりきり三発するや
軍勢の囁くかに聞こえ。
その囁き次第に呟きとなり。
その呟きやがてゴロゴロ畏るべく鳴り。
遂に家々から飛び出す鼠共の鳴り響む。
大きな鼠、小さな鼠、鍛えた鼠、逞しい鼠、
茶色い鼠、黒鼠、灰色鼠、褐色鼠、
よぼよぼ歩きの年寄りに、若く陽気な暴れん坊、
 父親、母親、叔父叔母、従兄弟、
尻尾突っ立て、ひげ生やし、
 10や12の家族ごと、
兄弟姉妹、夫に妻、……
かの笛吹きに従うさま見事。
通りから通りへ笛吹き進めば
一歩一歩と連れ立ち踊って
ヴェーザーの川に至るや
そこに皆落ち、群れ全滅!
……1匹除くはジュリアス・シーザーな鼠
泳ぎ渡って辛くも逃げ延び
(同じく大事に原稿抱えて)
鼠の国に、意見して言う
「高音きりきり鳴った最初は、
 胃が縮むような唸りに聞こえた、
 それがよく熟したりんごを突っ込む
 圧搾機のきしみみたいになった。
 そして漬物桶の蓋を引きずるみたいな、
 ジャム置き棚を閉めかけたみたいな、
 油瓶一列の栓を次々抜くみたいな、
 バター樽の箍が弾けるみたいな音に。
 そして声がしたみたいな
(琴や琵琶よりもずっと甘く
 密やかに)呼ばわって、『鼠たちよ、喜ぶがいい!
 世界は大いなる食料品店となった!
 むしゃむしゃ、ぼりぼり、お八つ召せ、
 朝食、夕食、お昼召せ!』
 そして巨大な砂糖の大樽のようなものに
 穴を開ける準備ができて、偉大な陽の光のように
 輝かしい貴重品がほんの目の前に来て、
 こう言われたような気がした、来れ、孔を穿て!と。
……気がつくとヴェーザーの波を被っていた。」
VIII.
よく聞こえたことだろう、ハーメルンの人々が
教会の尖塔も揺れよと鳴らす鐘の音。
「行け、」と市長は叫ぶ「物干し竿とか持ってこい、
 巣をつつき出して穴を塞ぐんだ!
 大工や棟梁たちと相談しろ、
 この街から跡形一つも残さぬように、
 鼠共の!」その時ひょっこり顔を
上げたは、広場を沸かせた笛吹き男
「さて皆様如何でしょう、僕の値段は1千ギルダ!」とか何とか。
IX.
1千ギルダ!市長は一気に青ざめた、
議員達とて御同様。
会議の晩餐まず恙無く
並べたワインはクラレットにモーゼル、グラーヴ、ホックと。
予算の半ばで満たすに足りよう
セラー最大の樽にラインワインを。
これを合わせた金を払えと、宿無しの奴に
ジプシーみたいな赤と黄色の服着た奴に!
「さてさて」宣う市長は曰くありげに目配せくれて、
「我等の仕事はかの川の淵に成された、
 我等はこの目で害獣沈めるを見た、
 死んだものが生き返ることもあるまいて。
 ゆえ友よ、我等萎縮せるものには非ず
 そなたに何か飲み物を与える義務から、
 そなたの袋に入れる路銀のことから。
 しかしギルダに関しては、我等話したこと
 あれは、君もよくよく判っているように、冗談に過ぎぬ。
 しかも我等は損失により、倹約せざるを得なくなった。
 1千ギルダとは!それ、50をやろう。」
X.
笛吹きの顔は曇った、そして怒鳴った
「下らないことを!それに僕は、待っては居れない!
 晩餐の時間までに行くと約束したんだから
 バグダッドに。最高のを頂くんだから
 料理長のポタージュを。財産すべてを
 残して死ぬところだった、カリフの厨房で、
 蠍の巣1つを1匹残らず始末したので……
 安売りはしないと彼にも教えたのに
 あなたときたら、鐚一文負けてやるものか!
 災いあれ我が怒り煽る者共に、
 見よ高らかに鳴る笛の恐ろしきを。」
XI.
「ほほう?」市長は怒鳴り返した、「許されるとでも、
 儂を料理人風情より貶めるのが?
 ぐうたらな下衆に侮辱されるのか
 いんちき笛持つだんだら服の?
 脅かすつもりか貴様?やってみろよ、
 ぶっ壊れるまで笛でも吹いてろ!」
XII.
今一度男は通りを歩み
 またしても唇すぼめるや
滑らかな直杖よろしく長い笛構え
 吹く音は三発(ごく甘やかに
柔らかい音色はプロの音楽家ですら中々
 そこまでうっとりした空気にはできぬほど)
ざわめきしたのは、何か賑わいのようだった
お祭り騒ぎに色々投げ出し押し合い圧し合いするような、
小さな足がパタパタと、木靴もカタカタいうような、
可愛い両手がパチパチパチと、可愛い舌がぺちゃくちゃ言うような、
そして麦の穂バラバラになった農場の鳥のような、
出てきた子供たちがかけっこするような。
可愛い男の子たちに女の子たち全員、
バラ色の頬と亜麻色の髪をして、
きらめく目と真珠のような歯を見せて、
ウキウキらんらん、陽気に続いて走って
素晴らしい音楽に、キャッキャウフフして。
XIII.
市長は口も利けなくなる、議会の者は突っ立ったまま
木の塊にでもなったみたいな、
一歩も動けず、呻きもせずに
愉しげに跳ねる子供たちの側に……
目だけついていくのがやっと
笛吹きについていく愉しげな集団に。
どんな台に市長が上がろうと
哀れな議員の動悸がしようと知らぬ気に
笛吹きは大通りから向きを変え
ヴェーザーが逆巻く方へと正に
息子たち娘たちを持って行くのでは!
と思いきや南から西へと曲がり
コッペルベルクの丘へと歩を向けた
ぎゅうとその背に子供たち、
喜びふくらむ皆の胸。
「奴とてあの高嶺は越せまいて。
吹いてる笛は落っことすしかなく、
子供たちも止まるに違いない!」
時に見よ、山の麓に皆達したところで、
不思議な大門広く口を開く、
いきなり洞穴でもくり抜かれたかのように。
そこに笛吹きが進み、子供たちが続く。
そして最後の者まで全員入ると
山腹のドアはさっと閉まってしまった。
全員と言ったかな?違う!1人足萎えの子が、
踊れず全然ついて行けなかったのだった。
後になって、しょげ込む彼に何か文句を
言おうものなら、つくづくとぼやくこと
「遊び仲間が居なくなって、つまらないよこの街は!
 もう気になってどうにかなりそうだよ
 みんなが見ている愉快な光景全てが、
 笛吹きが僕にも約束したものが。
 彼は僕等を誘って言ったよ、喜びの土地に、
 町に来ないかと、こう、手を差し出して。
 そこでは泉湧き出し果物の樹が育ち
 花に現れる色合いは妖精さながら、
 すべてが見た事もなく新しく。
 スズメがここでは孔雀より華麗、
 犬は此方のダマジカより速く走り、
 ミツバチは針も持たなくなって、
 産まれる馬は鷲の翼持つ。
 そして僕を安心させるように
 この動かない足もすぐに治るでしょうと。
 笛の音が止んで、僕は取り残された、
 気がついたら丘の外に居たんだ、
 心ならずも一人ぼっちにされて。
 だから未だにびっこ引き引き歩いてる、
 あの国のことはそれからもう聞いたことがないよ!」
XIV.
哀れなるかな、ハーメルン!
 街住み連中の頭に去来するのは
 天国の門は、とある文が語るには
 金持ちにも容易く開くものと
ラクダが針の穴を通れる程度には!
市長は東西南北に人を遣る、
笛吹き捜すに、口説すべく
 どこであろうと見つけた人には
心に思う金銀をと。
もしや男が通り道を引き返すなら、
 子供たちを連れて来てくれたなら、と。
しかし、彼等の努力は空振ったまま、
笛吹きと踊る子供たちは永遠に去ったと見るや、
皆で法曹に対し1つの布告発した
 正式に物事を記録する日付はかくなければと
当日のその年月日の後に、
次の数語を置かざること罷りならずと。
「1376年の
 7月22日に
 ここで起こった事からどれだけ経ったか」
そして、より良く記憶に刻んでおくために
最後に子供たちが出ていったところを
名付けて呼ぶに、斑なる笛吹きの通りと。
そこでは誰でも笛や太鼓を鳴らすなど
したが最後、その勤めを失うものと
宿屋や酒場の類は申すまでもなく
 静粛なる街路に浮かれ騒ぎ有るまじく
それはそれとし、かの洞窟の場所に向き合って
 この物語は柱に書かれた、
大きな教会の窓にもまた描かれた
同じように、世界中によく知らしめんと
どのように子供たちが連れ去られたかと、
それ今日なおも、そこに立つものと。
そしてこれは言っておかねばなるまい
トランシルヴァニアに住む部族の1つは
外国人に由来すると見られる
風変わりな風習服装を持つ
そのことで隣人たちの強調するには、
その祖先が嘗て上ってきたとか
地下の牢獄か何かから
罠に嵌められ入っていたのが
はるか昔に大いなる1団となり
ブランズウィックの国にあるハーメルンの町から。
しかしなぜ、どのようにかは、彼等もわかっていないとか。
XV.
さればウィリーよ、君と僕とは身綺麗に在らん
その勘定方はどんな人にも、…殊に笛吹きとか。
笛吹き追い払えるがドブネズミであろうとハツカネズミであろうと、
何事であれ約束したなら、その約束は守らねばな。

This is a translation of the poem The Pied Piper Of Hamelin by Robert Browning
Saturday, September 19, 2020
Topic(s) of this poem: translation
COMMENTS OF THE POEM
Close
Error Success