「私」に会いに Poem by Shuntaro Tanikawa

「私」に会いに

国道を斜めに折れて県道に入り
また左折して村道を行った突き当りに
「私」が住んでいる
この私ではないもうひとりの「私」だ

粗末な家である
犬が吠えつく
庭に僅かな作物が植わっている
いつものように縁側に座る
ほうじ茶が出た
挨拶はない

私は母によって生まれた私
「私」は言語によって生まれた私
どっちがほんとうの私なのか
もうその話題には飽き飽きしてるのに
「私」が突然泣き出すから
ほうじ茶にむせてしまった

呆けた母ちゃんの萎びた乳房
そこでふるさとは行き止まりだと
しゃくりあげながら「私」は言うが
黙って昼の月を眺めていると
始まりも終わりももっと遠いということが
少しずつ腑に落ちてくる

日が暮れた
蛙の声を聞きながら
布団並べて眠りに落ちると
私も「私」も<かがやく宇宙の微塵>となった

COMMENTS OF THE POEM
READ THIS POEM IN OTHER LANGUAGES
1 / 63
Shuntaro Tanikawa

Shuntaro Tanikawa

Tokyo City, Japan
Close
Error Success